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名古屋地方裁判所 昭和30年(行)2号 判決

岐卓市高野町二丁目九番地の二

原告

株式会社丸三田中政治商店

右代表者代表取締役

田中政治

右訴訟代理人弁護士

江口三五

右訴訟代理人弁護士

大塩量明

南谷信子

東浦菊夫

由良久

浦田益之

名古屋市中区南外堀町六丁目一番地

被告

名古屋国税局長奥村輝之

右指定代理人

松崎康夫

奥村欣三郎

加藤利一

市川有久

竹市肇

中子良吉

山本義雄

右当事者間の法人税査定金額に対する審査決定取消請求事件について、当裁判所は、次のとおり判決する。

主文

原告の請求はいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、申立

(原告の求める裁判)

被告が、昭和二九年九月二九日付で、名局直法審第一一一号をもってなした原告の昭和二六年一〇月二五日より同年一二月三一日までの年度分、および同第一一二号をもってなした原告の昭和二七年一月一日より同年一二月三一日までの年度分の各法人税に関する審査請求を棄却するとの決定を、それぞれ取消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

との判決。

(被告の求める裁判)

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

との判決。

第二、主張

(請求原因)

一、原告は昭和二八年二月二八日訴外岐阜北税務署長に対し、昭和二六年一〇月二五日から同年一二月三一日までの事業年度(以下「第一期」という。)の所得を金四、八〇〇円とし、昭和二七年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度(以下「第二期」という。)の所得を金二二〇、七〇〇円とする確定申告をなしたところ、同税務署長は昭和二八年六月三〇日第一期の所得を金一五六、九〇〇円とする更正処分をなし、同年七月三一日第二期の所得を金一、〇一〇、九〇〇円とする更正処分をなした。

二、そこで原告は、右更正処分を不服として同税務署長に対し、同年七月三〇日第一期分の更正処分について、同年八日二八日第二期分の更正処分について、それぞれ再調査請求をなしたところ、同税務署長は、昭和二九年二月二七日第一期分について、昭和二八年一二月一二日第二期分について、それぞれ請求を棄却する旨の決定をなした。

原告は更に被告に対し、昭和二九年三月二四日第一期分の右棄却決定について、昭和二九年一月一三日第二期分の右棄却決定について、それぞれ審査請求をなしたところ、被告は昭和二九年九月二九日名局直法審第一一一号をもって第一期分について、および第一一二号をもって第二期分について、それぞれ棄却する旨の決定をなした。

三、しかしながら、第一期分の更正処分のうち減価償却超過額金二、〇三七円および第二期分の更正処分のうち定期預金四〇、〇〇〇円(浅野綾子名義分)および預金三九八、七四七円がそれぞれ利益金に加算されるべきことは認めるが、その他は原告の申告のとおりであるから右更正処分を維持した右各審査請求棄却決定は違法である。よって、その取消を求める。

(被告の答弁と主張)

第一、請求原因第一、二項の事実は認めるが、第三項の審査決定が違法である点は争う。

第二、被告の主張。

一、訴外岐阜北税務署長は、原告から提出された第一期および第二期の法人税確定申告とその添付の別紙目録第一および第二記載の貸借対照表および損益計算書に基づき調査したところ、原告会社代表取締役田中政治の妻である浅野綾子名義(浅野は同人の旧姓。)で株式会社十六銀行今沢町支店(以下「十六銀行」という。)および株式会社大垣共立銀行岐阜支店(以下「大垣共立銀行」という。)に普通預金が存在することを発見し、これにより原告が簿外取引による所得を浅野綾子名義で預金していることが判明した。そこで同署係員は原告に対し、右簿外取引を記帳した別口帳簿の提示を求めたが、原告はこれが存することを認めたものの、その提示を拒んだ。このため同税務署長はさきに提出の貸借対照表、損益計算書に基き、各期の利益金を基準にして、自己の調査資料により各科目金額のうち、認められるものと、否認するものとを除加算して各期の所得金額を算定し、更正処分をなしたのである。

二、その内容および理由は次のとおりである。

(一)  第一期

(イ) 利益金 金四、八八八円一五銭

(ロ) 利益金に加算したもの。

(1) 減価償却超過金 金二、〇三七円

右は法人税法第九条の八に規定する命令で定める方法により減価償却を算定したとき生ずる超過金である。

(2) 否認した借入金 金一五〇、〇〇〇円

右は訴外田中久作、同橋本清之助、同浅野勇からの借入金各金五〇、〇〇〇円の合計額である。

(a) 原告は昭和二六年一一月二〇日田中久作および橋本清之助から各金五〇、〇〇〇円を借入れた旨記帳しているが、原告備付の現金出納帳によると、同日の現金残高は金二一四、五〇〇円、その前日の現金残高は金一〇六、三五五円であって、その後同月末日まで常時金一〇〇、〇〇〇円以上の現金残高があるので右借入れを必要とする理由を見出せない。

(b) 同年一二月一三日訴外浅野勇より金五〇、〇〇〇円を借入れた旨記帳されているが、同日一二日右現金出納帳による現金残高は、金一二二、三三二円五〇銭、同月一三日の現金残高は金一八一、六一三円となっていて、前項と同じく借入れを必要とする理由を見出せない。

(c) しかして、田中久作は前記田中政治の兄、橋本清之助はその叔従父、浅野勇はその義兄にあたり、いずれも親族関係にあること、従って通諜による架空の借入れを行う可能性があること、右借入れを証する証拠の提出がないこと、右借入れに対する利息支払いの記帳がないこと、原告が前記のように簿外所得を浅野綾子名義で十六銀行および大垣共立銀行に、普通預金として隠匿していたことを考え合せると、右各借入金は原告が売上金を脱漏し、これを借入による入金として計上したものと認められるから、これを否認したものである。

(3) 記帳洩れの定期預金 金一二〇、〇〇〇円

右は田中政光名義大垣共立銀行定期預金である。

原告は昭和二六年一二月二二日右銀行から金一二〇、〇〇〇円を借入れた旨記帳しているが、右借入れの日に同銀行に田中政光名義で右定期預金の預入がなされたことの記帳はない。しかし、右定期預金が原告の所有であることは、昭和二七年一二月三日これが解約され右原告会社の借入金の返済に充てられたことにより明かである。すなわち、右借入れは右定期預金を損保にしてなされ、その返済は右預金の払戻しによる現金をもってこれにあてたのである。これは原告が帳簿上の資金繰りの必要に迫られ、過去に簿外とした脱漏所得の一部をもって田中政光(田中政治の実弟である。)名義の定期預金として預入れをしたもので、当時巷間法人税脱税の常套手段として用いられていた方法である。よって、右定期預金は原告の記帳洩れの所得と認められる。

(4) 記帳洩れの普通預金 金四〇、〇〇〇円

浅野綾子名義大垣共立銀行普通預金の昭和二六年一二月三一日現在残高金四〇、四五六円のうち、同日預入れの金四〇、〇〇〇円は原告も否認している十六銀行の第二期における原告の簿外現金とその取引内容等から判断して全く同一性質のものであるから、簿外取引により、所得を脱漏したものと認められる。

以上により原告の第一期における所得は

(イ)+(ロ)((1)+(2)+(3)+(4))=金三一六、九二五円一五銭である。

(二)  第二期

(イ) 利益金 金一三七、〇七四円七七銭

(ロ) 利益金に加算したもの。

(1) 損金計上法人税 金七〇、七二〇円

(2) 損金計上市民税 金一二、九六九円

原告は確定申告において、(1)、(2)の各税を損金に算入しているが、法人税法第九条第二項により、損金として認められないものである。

(3) 記帳洩れの普通預金 金三九八、七四七円

右は浅野綾子名義の十六銀行普通預金残高であり、これは原告の前述簿外取引による所得を預入れたものと認められ、原告は右預金を記帳しなかったものである。

(4) 記帳洩れの定期預金 金二〇〇、〇〇〇円

右は中島秀雄名義、田中善光名義の昭和二七年八月九日十六銀行定期預金各金八〇、〇〇〇円および浅野綾子名義同銀行定期預金四〇、〇〇〇円である。中島秀雄名義、田中善光名義の右定期預金は、銀行届出の印鑑として原告会社代表取締役田中政治のものを使用していること、右各名義人の住所を原告会社本店所在地としていることから、原告の所得と認められるところ、原告はいずれも右預金の記帳をしなかったものである。(浅野綾子名義預金については原告の所有であることに争がない。)

(5) 否認した借入金 金二〇〇、〇〇〇円

右は訴外橋本清之助、同田中久作からの借入金各金五〇、〇〇〇円および同浅野勇からの借入金一〇〇、〇〇〇円の合計額である。

(a) 原告は昭和二七年七月一五日橋本清之助および浅野勇から各金五〇、〇〇〇円借入れた旨を記帳している。これは原告が昭和二七年七月一六日前記浅野綾子名義の十六銀行普通預金より金一九三、〇〇〇円を、大垣共立銀行普通預金より金六〇、〇〇〇円をそれぞれ払戻し、原告会社経理に繰入れるために前日付で橋本および浅野から借入れたように記帳したものと認められる。よって右各借入金は架空のものであるから否認したものである。

(b) 原告は昭和二七年八月一日田中久作から金五〇、〇〇〇円を借入れた旨を記帳している。しかして原告は、同日原告名義大垣共立銀行当座預金へ金一〇七、〇〇〇円を預入れているが、その前日である同年七月三一日現在の原告現金出納帳によると現金残高金五六、二八八円九二銭であり、これに右借入金五〇、〇〇〇円および八月一日当日の入金額を加えてもその合計額は一〇六、五二三円九二銭にすぎないから右預入れは帳簿上不可能であり他から預金収入があったと推測される。しかるところ一方、同年八月一日別途前記浅野綾子名義十六銀行普通預金より金一〇〇、〇〇〇円を払戻した事実が存するので、右田中久作からの右借入金なるものは右預金払戻金一〇〇、〇〇〇円の一部に外ならず、原告はこれを借入金として記帳の体裁を整えているにすぎないものと認められる。(なお右預金払戻金の残金五〇、〇〇〇円の使途は不明である。)よって右借入金は架空のものであるから、これを否認したのである。

(c) 更に原告は昭和二七年一〇月五日浅野勇から金一五〇、〇〇〇円を借入れ、これをもって同月六日原告の大垣共立銀行からの借入金一五〇、〇〇〇円を返済した旨記帳している。しかし、右返済は原告が同月六日浅野綾子名義で所有している同銀行普通預金から金三〇、五〇〇円、十六銀行普通預金から金一二四、〇〇〇円、合計一五四、五〇〇円を払出してうち一五〇、〇〇〇円をこれにあてたものと認められる。故に右浅野勇よりの借入金は架空のものであるから否認したのである。しかして、右否認した借入金一五〇、〇〇〇円のうち金一〇〇、〇〇〇円はすでに返済された旨記帳され、浅野綾子名義の前記普通預金に預れられているものと認められるので、本項で否認する借入金額は金五、〇〇〇円となる。

(6) 記帳洩れの仮払金 金二六五、〇〇〇円

原告は昭和二七年二月八日大垣共立銀行より金三〇〇、〇〇〇円を借入れるにあたり、同日一旦浅野綾子名義同銀行普通預金より金三〇〇、〇〇〇円を払戻した上、同銀行に同人名義の同額の通知預金を預入れ、これを担保にして右同額の借入れをなした。しかして右借入金の返済は同年一一月五日右通知預金を解約して支払いを受けた現金をこれにあてたものと認められるにかかわらず、原告は現金出納帳から現金三五、〇〇〇円を支出し、かつ、原告名義の同銀行当座預金より金二六五、〇〇〇円を小切手(一二七五〇号)により引出して右借入金を返済した旨記帳している。もとより、右小切手は右銀行に対する借入金の返済には必要のない資金であるので、原告はこれを同月六日浅野綾子名義同銀行普通預金に預入れている。右浅野綾子名義同銀行普通預金が原告所有であることは前述のとおりであり、右小切手により預入れられた金二六五、〇〇〇円も当然記帳洩れの原告の預金としてその所得に加算されるべきところ、右金二六五、〇〇〇円は同月六日金一〇〇、〇〇〇円が、同月一〇日金一六五、〇〇〇円がそれぞれ払戻され、その使途は不明である。よって被告はやむなく右金額を仮払金として否認しこれを所得に加算したのである。

(ハ) 利益金より除算するもの

(1) 未納利子税 金六、四八七円

右は法人税法第九条による控除金額である。

(2) 減価償却超過金中認容額 金二、〇三七円

右は法人税第九条の八に規定する命令の定める方法により算定した認容額である。

以上により原告の第二期における所得は

(イ)+(ロ)((1)+(2)+…………+(6))-(ハ)((1)+(2))=金一、二七五、九八六円七七銭である。

(被告の主張に対する原告の答弁と反論)

第一、被告主張事実のうち、

一の事実中、原告に別口記帳が存在することおよび被告から右帳簿の提示を求められて原告がこれを拒否したことは否認し、その他は認める。

二の(一)の事実のうち、

(イ)および(ロ)の(1)・事実は認める。

(ロ)の(2)の事実のうち、原告会社の帳簿に被告主張のような記載があることおよび田中久作、橋本清之助、浅野勇と田中政治との身分関係が被告主張のとおりであることは認めるが、その余は否認する。

(ロ)の(3)の事実のうち原告会社の帳簿に被告主張のような記載があることおよび田中政光と田中政治との身分関係が被告主張のとおりであることは認めるか、その余は否認する。政光名義の定期預金は原告と無関係のものである。

(ロ)の(4)の事実は認める。

二の(二)の事実のうち、

(イ)、(ロ)の(1)ないし(3)および(ハ)の各事実は認める。

(ロ)の(4)の事実のうち、浅野綾子名義定期預金四〇、〇〇〇円が右訴外人名義による原告の預金であること、中島秀雄および田中善光名義の定期預金について原告代表者の印鑑が預金者の印鑑として届出られていること、預金者の住所が原告会社本店所在地と同一であることは認めるが、右中島、田中名義の預金が原告の預金であることは否認する。

(ロ)の(5)の事実のうち、原告会社の帳簿に被告主張のような記載があることならびに浅野綾子名義および原告名義の各預金について被告主張のような預入および払戻がなされていることは認めるが、その余の事実は否認する。

(ロ)の(6)の事実のうち、原告会社の帳簿に被告主張のような記載があることは認めるが、その余は否認する。

第二、原告の反論。

一、第一期の借入金について。

訴外田中久作、同橋本清之助、同浅野勇からの借入れは、現金をもって、現実に行われたのであり、被告が主張するような架空経理では決してない。しかして原告会社設立以来、田中久作、橋本清之助は取締役に、浅野勇は監査役にそれぞれ就任して、積極的に会社の運営発展に寄与しており、しかも三名とも裕福な純農家或いは兼業農家であるから、五〇、〇〇〇円や一〇〇、〇〇〇円の貸付けに困るようなことはないのである。貸借があった昭和二六年頃は、相当現金取引の行われていた時代であり、特に田中および橋本から借入れた同年一一月二〇日頃は、原告の営業品目である陶器類の冬物商品仕入の最盛期であって、常時多額の仕入金を確保しておく必要があったのである。かりに右借入金がなかったならば、原告には同月三〇日現在金二八、六一八円の現金しかなかったということになり、特に同月二〇日から同月三〇日までの期間中の当座預金はわずか金二七四円しかなかったのであるから右仕入に事欠くことになる。また浅野から借入れた同年一二月一三日当時の原告の当座預金もわずか金八七〇円しかなかったから右借入がなかったならば年末を控えて会社の運営に支障を来したであろう。従っていずれの借入金もこの時期の原告にとり、不可欠のものであったことが明らかである。しかして右借入に際し借用証書を作らなかったのは、貸主が原告代表者の親族で且つ原告会社役員であるから原告会社の帳簿に記載すれば事足りていたためであり、利息の支払いも原告に余力ができてから支払っている。すなわち、田中久作分については昭和二八年八月一五日から同三一年一二月末日まで八回に亘り合計七二、三七〇円を、橋本清之助分については、右同期間内に六回に亘り二一、一〇〇円を、浅野勇分については右同期間内に六回に亘り七五、〇〇〇円をそれぞれ支払っているのである。(ただし、右利息はそれぞれ数口の借入金に対するものである。)

二、第一期の普通預金について。

浅野綾子名義大垣共立銀行預入れ普通預金四〇、〇〇〇円は、その後全額を払戻して、これを同人名義十六銀行普通預金に預入れたのであるから、被告主張第二期の記帳洩れ普通預金三九八、七四五円のうちに含まれている。従って右普通預金四〇、〇〇〇円を第一期において利益金に加算して、これに課税をすると、第二期の右普通預金に対する課税と二重になるから違法である。

三、第二期の定期預金について。

原告代表者田中政治は、訴外中島秀雄、同田中善光と親族であり、両名から度々融資を受けていた間柄であった。本件定期預金はもともと昭和二七年八月二日両名から各金八〇、〇〇〇円を借入れたものを、同月六日一旦浅野綾子名義十六銀行普通預金に預入れ、その後の同月九日これを払戻して、右両名の名義で同銀行定期預金に組替え、これを担保として同銀行より金一六〇、〇〇〇円を借入れたという経過を辿ったのである。故に右定期預金は中島、田中からの借入金であるから、原告の所得とすべきいわれはない。

四、第二期の借入金について。

原告および原告代表者田中政治と訴外田中久作、同橋本清之助および同浅野勇との関係は前述のとおりであり、本件金二〇〇、〇〇〇円の貸借は現金を現実に授受して行われたものであるから、被告主張のような架空経理では決してない。

(原告の主張に対する被告の再答弁)

原告主張事実のうち、

一の事実中、訴外田中久作、同橋本清之助、同浅野勇が原告会社のために貢献したことおよび他人に金員を貸与する資力があったことを否認する。すなわち、原告は第一、二期において、右三名に役員報酬を全く支払っていないのであるから、右三名が原告のためどの程度活動したのか疑しい。また右三名の昭和二六・七年度の所得は零ないし僅少であるから、原告に貸与できる余力があったとは到底考えられない。

二の事実中、大垣共立銀行預入れ普通預金を払戻したことは認めるが、これを十六銀行に預替えたことは否認する。大垣共立銀行からの右払戻は、昭和二七年一月四日になされ、十六銀行普通預金は同年七月四日から預入れが開始されているのであるから、この間半年の時日が経過しており、従って右払戻金は消費されたのであって、預替えがあったとは考えられない。

(証拠関係)

原告訴訟代理人は、甲第一ないし三号証、第四号証の一ないし三、第五号証の一ないし七、第六号証の一、二、第七号証の一、二を提出し、証人浅野勇、同田中久作、同橋本清之助、同中島秀夫、同田中善光、同高木義直(第一、二回)の各証言および原告代表者田中政治尋問の結果を援用し、乙第一ないし七号証、第一一号証、第一六号証の二、第二〇ないし二三号証、第二八号証、第二九号証の一、二は、いずれも成立を認める。乙第八ないし一〇号証の各一、二、第一二号証の一、二、第一三号証の一ないし三、第一四号証、第一五号証、第一六号証の一、第一七ないし一九号証、第二四ないし二七号証の成立は、いずれも不知と述べた。

被告指定代理人は、乙第一ないし七号証、第八ないし一〇号証の各一、二、第一一号証、第一二号証の一、二、第一三号証の一ないし三、第一四号証、第一五号証、第一六号証の一、二、第一七ないし二八号証、第二九号証の一、二を提出し、証人井奈波秀雄、同小川啓一郎の各証言を援用し、甲第一ないし三号証、第六号証の一、二、第七号証の一、二はいずれも成立を認める、甲第四号証の一ないし三、第五号証の一ないし七の成立はいずれも不知と述べた。

理由

一、請求原因および二記載の経過で、原告主張のごとき確定申告、更正処分、再調査請求、棄却決定、審査請求、審査決定が順次なされたこと、原告提出に係る法人税確定申告書に添付された第一期および第二期の貸借対照表および損益計算書がそれぞれ別紙目録第一および第二記載のとおりであったことは当事者間に争いない。

二、第一期の所得について。

(1)  法人税法第九条の八の命令で定める方法により算定した減価償却超過金が金二、〇三七円であることは当事者間に争いない。

(2)  第一期の借入金について。

原告会社の帳簿には、昭和二六年一一月二〇日田中久作、橋本清之助から、同年一二月一三日浅野勇から、それぞれ金五〇、〇〇〇円ずつを借入れた旨の記載があることは当事者間に争がなく、被告は右借入は仮装のものであり、原告会社の簿外の売上金にほかならない旨主張する。

しかしながら、被告の全立証によるも被告主張の右事実を認めることはできない。なるほど、田中久作が原告会社代表者田中政治の兄であること、橋本清之助が政治のいとこであること、浅野勇が政治の妻綾子の兄であることは当事者間に争がなく、成立に争ない乙第一号証、証人小川啓一郎の証言によって成立を認める同第一八、一九号証によれば、昭和二六年分の課税所得の申告額は田中久作が一五七、〇〇〇円、橋本清之助が一八一、一〇八円、浅野勇が零であることが認められ、また、証人田中久作、同橋本清之助、同浅野勇の各証言によれば、貸主たる右浅野等三名は右貸付金につき原告会社との間に弁済期、利息の約定をしていないのみでなく、借用証さえ差入れさせていないことが認められる。しかしながら、いずれも農家である右浅野等三名について税務署に対する所得の申告額のみによってその経済状態を推測し得るかは疑問であるし、親族間においては右各証言にあらわれたようなルーズな金銭の貸借もあり得ないことではないから、当裁判所としても、右仮入金仮装のものではないかという疑はあるけれども、これが間違いなく原告会社の簿外の売上金であって、経理の必要上仮入金を擬装したものであるとの確信にまではいたり得ないのである。被告は、右借入当時の原告の現金出納帳残高は昭和二六年一一月一九日一〇六、三五五円、一一月二〇日二一四、五〇〇円、その後一一月末日まで常時一〇〇、〇〇〇円以上、同年一二月一二日一二二、三三二円、同月一三日一八一、六一三円であり、相当の現金を保有していたから借入をする具体的必要が認められないと主張し、右帳簿における右記載の事実は当事者に争いがないけれども、一方、原告代表者本人尋問の結果によれば、昭和二六年頃においては商品の仕入になお相当現金取引が行われており現在ほど信用買の自由がなく、かつ、右借入時期は冬物商品の仕入最盛期で原告会社としてもできるだけ多額の現金を確保しておく必要があったものであることが認められるから、前記程度の現金残高の在存により、ただちに右借入をなすことが不合理であるとも断じ得ない。その他後記認定のごとき原告会社が税務署対策として帳簿上偽装工作を施している事実を参酌しても右借入金が架空のもので、その実質において前上の脱漏売上金であるとまでは認め得ない。

(3)  第一期の定期預金について。

原告会社の帳簿に原告が昭和二六年一二月二二日大垣共立銀行から金一二〇、〇〇〇円を借入れた旨の記載があること、田中政光が原告代表者田中政治の弟であることは当事者間に争がなく、昭和二六年一二月二二日右田中政光名義で右銀行に定期預金がなされ、これが翌二七年一二月三日右銀行から引出されていることは原告において明らかに争わないから自白したものとみなされる。

被告は、右定期預金は田中政光名義になっているけれども原告の所有である旨主張し、原告はこれを争う。

よって判断するに、成立に争ない乙第三、四号証、同第二九号証の一、二、証人小川啓一郎の証言によって成立を認める同第一六号証の一および右小川証人の証言によれば、右田中政光は原告会社の使用人として第一期中において僅々六、〇〇〇円の給料を受けていたにすぎないものであること、前記田中政光名義の定期預金は原告会社が大垣共立銀行から金一二〇、〇〇〇円を借入れた日と同日である昭和二六年一二月二二日同銀行に預け入れられ右借入金の担保に供されたものであるが、翌二七年一二月三日現金をもって全額払戻され、同日大垣共立銀行に対する原告の前記一二〇、〇〇〇円の債務が完済されていることを認めることができる。右事実と本件において右銀行に対する支払が原告の資金によってなされたことを認め得る資料が全く存しないこととを綜合するときは、右定期預金は結局原告会社の債務の支払に充当されたものであり、田中政光名義になってはいるが、実際は原告会社の所得による預金であるものと認められる。右認定に反する原告会社代表者尋問の結果は措信できない。してみると、被告が右定期預金を脱漏所得と認め、原告の利益金に加算したのは相当である。

(4)  第一期の普通預金について。

原告会社がその代表者田中政治の妻である浅野綾子(ただし浅野は同人の旧姓)の名義をかりて大垣共立銀行および十六銀行に預金を所有していたことは当事者間に争なく、証人井奈波秀雄の証言および同証言によって成立を認める乙第一四、一五号証によると、原告は昭和二八年二月頃第一期および第二期について一度に法人税の確定申告をなしたものであるが、同年六月頃から所轄岐阜北税務署において調査した結果右隠し預金のあることが発見されたものであること、十六銀行との右取引は昭和二七年七月四日開始されたものであるが、大垣共立銀行との右取引は原告会社設立の昭和二六年一〇月二五日当時から継続して行われているものであること、大垣共立銀行における右綾子名義の普通預金の昭和二六年一二月三一日現在における残高は四〇、四六五円であることが認められる。

してみると、被告が右四〇、四六五円中四〇、〇〇〇円を原告の脱漏所得として利益金に加算したことは相当である。原告は右四〇、〇〇〇円は浅野綾子名義の前記十六銀行普通預金に預け替えたものであり、同預金の第二期分に含まれているからこれを第一期の利益金に加算することは二重課税である旨主張する。しかしながら、原告の右主張に副う原告代表者本人尋問の結果はにわかに措信がたく、かえって、右乙第一四、一五号証によれば、原告の預け替えたと称する四〇、〇〇〇円は昭和二七年一月四日大垣共立銀行から払出されていることが認められるのにかかわらず、十六銀行との取引は前記のようにそれから六ケ月を経過した同年七月四日はじめて開始されているのであるから、右金員について預替えがあったということは到底考えられない。よって原告の右主張は採用することができない。

(5)  以上により原告の第一期における所得は

利益金 四、八八八円一五銭

減価償却超過金 二、〇三七円

定期預金 一二〇、〇〇〇円

普通預金 四〇、〇〇〇円

右合計 一六六、九二五円一五銭

と算定できる。

しかして訴外岐阜北税務署長が昭和二八年六月三〇日なした原告に対する更正処分は、原告の第一期の所得を金一五六、九〇〇円としたものであって、右更正処分による所得額は、右に算定した所得額の範囲内であるから相当であり、従って右更正処分を維持した被告の昭和二九年九月二九日付名局直法審第一一一号をもってなした審査請求棄却決定には何等の違法がないことになる。故に右決定の取消を求める原告の本訴請求は理由がないから棄却せられるべきである。

三、第二期の所得について。

(1)  法人税法第九条第二項により損金として認められない法人税額が七〇、七二〇円、市民税額が一二、九六九円であること、原告が訴外浅野綾子名義で十六銀行に所有している預金の残高が三九八、七四七円であること、未納利子税(法人税法第九条による控除金額)が六、四八七円、同法第九条の八の命令の定める方法により算定した減価償却超過金中認容額が二、〇三七円であることはいずれも当事者間に争がない。

(2)  第二期の定期預金について。

訴外浅野綾子名義十六銀行預入れの定期預金四〇、〇〇〇円が原告の所有であることは当事者間に争がない。

訴外中島秀夫、同田中善光名義の十六銀行預入れ定期預金各八〇、〇〇〇円が昭和二七年八月九日預入に係ることは当事者間に争いがなく、右各定期預金は浅野綾子名義十六銀行預入れ普通預金から振替えて設定されたこと、これを担保として原告は同銀行から同日一六万円を借入れたことは被告において明らかに争わないからこれを自白したものとみなされる。

被告は右定期預金は右訴外人等の名義になっているけれども、被告会社の所有である旨主張するところ、右定期預金が前述のごとく原告の所有であると認められる浅野綾子名義十六銀行普通預金から振替えて設定せられたことおよび右定期預金の届出印として原告代表者の印が使用され、名義人たる秀夫、善光の住所として原告会社本店所在地が届出られていることが当事者間に争ないことに徴すると、右被告の主張を肯認することができる。

これに対し、原告は、昭和二七年八月二日右中島秀夫、田中善光から金八〇、〇〇〇円ずつを借り受け、同月六日これを右浅野綾子名義の十六銀行普通預金に振り入れ、さらに同月九日これを振替えて右各定期預金にしたものであるから、右定期預金はその実質において借入金であり、原告の脱漏所得によるものではないと主張する。しかして、前記乙第一四号証によると、昭和二七年八月六日浅野綾子名義の普通預金に一五六、〇〇〇円預け入れられていることが認められるが、右は原告の主張とその金額においてくいちがいがあることが明らかである。また、原告代表者の供述により成立を認める甲第五号証の五、六、成立に争ない乙第七号証、同第一一号証、証人田中善光、同中島秀夫の各証言および原告代表者の供述は原告の主張に符合するものではあるが、右各証拠も証人小川啓一郎の証言により真正に成立したものと認める乙第八、九号証の各一、二、同第一二号証の一、二、同第一三号証の一ないし三に対比するときにわかに信用することはできない。他に右原告の右主張を認めるに足る証拠はない。よって、被告が右中島秀夫、田中善光名義の定期預金各金八〇、〇〇〇円を原告の所得と認定したことは相当である。

(3)  第二期の借入金について。

(一)  原告会社の帳簿に昭和二七年八月一日訴外田中久作から金五〇、〇〇〇円を借入れた旨の記載のあることは当事者間に争がない。

被告は、右借入は仮装のものであり、原告会社の簿外所得に外ならない旨主張し原告はこれを争う。よって審究するに、原告会社が昭和二七年八月一日大垣共立銀行の原告名義当座預金に金一〇七、〇〇〇円を預れていること、しかるに原告会社の現金出納簿残高は同年七月三一日現在五六、二八八円九二銭、翌八月一日現在一〇六、五二三円九二銭(右借入に係るとする五〇、〇〇〇円を加えても)にすぎないことは当事者間に争がない。してみると右当座預金への金一〇七、〇〇〇円の預入が不可能であることは計算上明白なところである。原告はこの点に関し原告のごとき小規模の会社では現金の取扱、帳簿の記入が粗雑であるため帳簿上右のごときくいちがいを生じたにすぎず、実際は少くとも一〇七、〇〇〇円の現金残があったものである旨主張し、これに符合する原告代表者本人の供述部分もあるが、右供述部分はにわかに措信しがたく他に原告の右主張を認め得る証拠はない。従って原告会社には昭和二七年八月一日五〇、〇〇〇円を超える現金収入があったものと考えざるを得ない。しかるところ、前記乙第一四、一五号証、証人伊奈波秀雄の証言および同証言によって成立を認める同第二四号証によれば、前記十六銀行における浅野綾子名義預金(原告所有)から昭和二七年八月一日金一〇〇、〇〇〇円が引出されているところ、これについて原告会社顧問高木税理士事務所の事務員は原告会社と協議のうえ岐阜北税務署の調査担当官に対し、右一〇〇、〇〇〇円は原告会社の当座預金に預けかえられた旨の説明をなしたこと、当時原告会社の隠し預金たる浅野綾子名義の普通預金は右十六銀行の口座における右一〇〇、〇〇〇円のほかに大垣共立銀行の口座に約四〇、〇〇〇円を残しており、他からわざわざ五〇、〇〇〇円もの借入をしなければならないような状況ではなかったこと等の事実を認めることができる。右事実関係によれば、原告のいう田中久作からの右五〇、〇〇〇円の借入は仮装のものであり、実際は原告所有の浅野綾子名義十六銀行普通預金から昭和二七年八月一日引出された一〇〇、〇〇〇円の一部であると考えることができる。右認定に反する証人田中久作の証言、原告代表者の供述は措信できない。

(二)  原告会社の帳簿に昭和二七年七月一五日橋本清之助、浅野勇から金五〇、〇〇〇円ずつを借入れた旨の記載のあることは当事者間に争がない。被告は右借入は仮装のものであり、原告会社の簿外所得にほかならない旨主張し、原告はこれを争う。

よって審究するに、原告が浅野綾子名義の原告所有普通預金につき同年七月一六日大垣共立銀行分より金六万円、十六銀行分より金一九三、〇〇〇円を払戻していることは当事者間に争ない。しかして、前記乙第一四、一五号証および証人伊奈波秀雄の証言によると、右浅野綾子名義預金から原告が右のごとく二五三、〇〇〇円を払戻した当時原告会社には右以外にさらに多額の借入をしなければならぬような資金繰り上の必要は存在せず、かつ、原告会社は確定申告後における岐阜北税務署係官の追究に対し右二五三、〇〇〇円中一五三、〇〇〇円については概ねその使途を明らかにしたが残金の一〇〇、〇〇〇円についてはその使途を明らかにしなかったことが認められる。右事実関係によると、前記橋本清之助、浅野勇らの各借入金は架空のものであり、原告は浅野綾子名義のその所有普通預金から払出した二五三、〇〇〇円中一〇〇、〇〇〇円をもって右各借入を擬装したものということができる。右認定に反し、右各借入が真実のものであったとする証人橋本清之助、同浅野勇の各証言、原告代表者本人尋問の結果はにわかに措信することができない。

(三)  原告会社の帳簿には、昭和二七年一〇月五日浅野勇から金一五〇、〇〇〇円を借入れた旨の記載があることは当事者間に争がない。

被告は右借入金は仮装のものであり、原告会社の簿外所得であると主張するところ、原告はこれを争う。

よって審究するに、原告会社は右借入金をもって同年同月六日大垣共立銀行に対する債務一五〇、〇〇〇円を弁済した旨記帳していることおよび右同日原告が前記浅野綾子名義の同銀行における普通預金から三〇、五〇〇円十六銀行における普通預金から一二四、〇〇〇円合計一五四、五〇〇円を払戻していることは当事者間に争がない。しかして証人伊奈波秀雄の証言および原告が右一五四、〇〇円を払出した昭和二七年一〇月六日当時原告会社においてその外にさらに一五〇、〇〇〇円を他から借入れなければならないような事情があったとは認められないことを考え合せると、右浅野勇からの借入金一五〇、〇〇〇円は仮装のものであり、原告はその所有の浅野綾子名義普通預金から払出した一五四、五〇〇円中一五〇、〇〇〇円を右浅野からの借入として記帳したうえ、これを大垣共立銀行に対する債務の弁済に充てたものであると認めることができる。右認定に反する証人浅野勇の証言および原告代表者の供述は措信することができない。

(四)  以上の次第であるから、被告が(一)の借入金五〇、〇〇〇円、(二)の借入金合計一〇〇、〇〇〇円、(三)の借入金中五〇、〇〇〇円を原告の脱漏所得であると認めたのは相当であるといわなければならない。

(4)  第二期の仮払金について。

昭和二七年一一月五日原告会社の現金出納帳から三五、〇〇〇円、大垣共立銀行の当座預金から二六五、〇〇〇円小切手番号一二七五〇)が払出されていること、原告会社の帳簿上右合計三〇〇、〇〇〇円が右同日原告の大垣共立銀行に対する借入金債務三〇〇、〇〇〇円の決済に充てられた旨記帳されていること、同月六日右二六五、〇〇〇円の小切手が同銀行における原告の浅野綾子名義普通預金に預け入れられたうえ、右預金から即日一〇〇、〇〇〇円、同月一〇日一六五、〇〇〇円が引出されていることは当事者間に争がない。被告は右一六五、〇〇〇円および一〇〇、〇〇〇円は原告の資産であり、これが原告の手により使途不明として隠匿されてしまったので、その合計額二六五、〇〇〇円を仮払金として原告の利益金に加算すべきものであると主張し、原告はこれを争う。

よって審究するに、前記乙第一五号証、証人小川啓一郎の証言および同証言によって真正に成立したものと認める同第一七号証、第二九号証の一、二によれば、原告は昭和二七年二月八日大垣共立銀行から三〇〇、〇〇〇円を借入れるにあたり、同行に浅野綾子名義をもって預入れている普通預金より三〇〇、〇〇〇円を引出したうえ、同行に右訴外人名義で同額の通知預金を設定し、これを右借入金の見返りとしておいたこと、しかして、原告は同年一一月五日右浅野綾子名義の通知預金を解約し現金の支払をうけこれをもって右借入金の決済に充当したにかかわらず、前記のように右銀行の当座預金による小切手二六五、〇〇〇円および手許現金三五、〇〇〇円を帳簿上右借人金の弁済資金として用意したため、当然の結果として右小切手および現金三五、〇〇〇円が正規帳簿外の資金として原告の手中に残存することとなったこと、そこで原告は右小切手金二六五、〇〇〇円を一旦原告の隠し預金たる右銀行の浅野綾子名義普通預金に預け入れたる後前認定のごとく一一月六日、同月一〇日の二回に亘りその全額を引き出し税務当局に対してはその行方を全く隠蔽しているものであること等の事実を認めることができる。右認定に反する証拠は存しない。

右認定の事実関係によれば、原告は銀行に対する借入金を正規資金により決済するごとく仮装して、裏預金をもって決済し、よってこれに対応する正規資金を簿外資金に繰り入れ、結局その行方を隠蔽しているものであるから、被告がこれを脱漏仮払金の名のもとに原告の所得と認定したことは相当である。

(5)  以上により原告の第二期における所得は申告利益額一三七、〇七四円七七銭に被告主張の各科目の除加算をなすと、金一、二七五、九八六円七七銭となることは計算上明白であるから、被告が昭和二九年九月二九日付名局直法審第一一二号をもつてなした原告の昭和二七年一月一日より同年一二月三一日までの年度分の法人税に関する審査請求を棄却する旨の決定は何等違法ではない。従って、右決定の取消を求める原告の請求は理由がないから棄却せられるべきである。

四、以上により、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 宮本聖司 裁判官 藤原寛 裁判官 郡司宏)

貸借対照表(目録 一)

〈省略〉

損益計算書(目録 一)

〈省略〉

貸借対照表(目録 二)

〈省略〉

損益計算書(目録 二)

〈省略〉

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